「思考力なんて結局は生まれついての地頭で決まる」
このように思っている人も多いようですが、考える力は鍛えることができます。
この記事では就職・転職活動の面接でも差別化の武器になる、思考力を高めるアプローチやトレーニング方法をご紹介します。
思考力は入社面接の定番評価項目
新卒の就職活動や中途の転職活動では面接(インタビュー)が合否を大きく左右します。
そしてその面接における定番かつ重要な評価項目の一つが思考力です。
採用面接で思考力を測るのは定番
筆者は複数の戦略コンサルティングファームで15年以上勤務していた間に、採用面接の面接官として数百人の人と面接をしました。
面接は新卒向けもあれば、中途入社向けもありましたが、どの面接の際でも人事担当から渡される評価基準に必ず含まれていた項目の一つが思考力でした。
コンサルタントは思考することが仕事そのもののような職種ですので、思考力が重要な評価項目になる特殊な例と思われるかもしれません。
しかし、採用活動の中で話をする機会のあった人材エージェントントに話を聞いてみると、候補者に思考力を求めるのはコンサルティングファームに限ったことでは無く、大企業からベンチャー企業まで多くの企業が思考力は求める人材の重要な要件にしているようです。
思考力は地頭で決まる訳ではない
ところで、思考力に関連して良く耳にする言葉に「地頭」があります。
野球で速いボールを投げたり、遠くまでボールを投げたりする身体能力が、持って生まれて高い選手を「地肩が強い」と表現します。
同様に、持って生まれた頭の良さを指す言葉として「地頭が良い」が使われます。
そして思考力は地頭で決まると思っている人が数多くいるようです。
しかし私の経験から言えば「地頭」という概念自体、定義が曖昧なものです。
地頭が良いという印象・評価が行われる場合の多くは、その人の言動から逆算して導かれていて「地頭が良いから思考力が高い」というより「思考力が高いから地頭が良いという」のが実際の構造です。
ですから思考力を鍛えることは、地頭が良いという評価にもつながります。
そして思考力は才能で決まるものではなく、鍛えることが可能です。
思考力を鍛える3つのトレーニング
それでは思考力を鍛えるためには、どのようなことをすれば良いのでしょうか?
極端な形で結論を言えば、思考力を鍛えるには“たくさん考えること”が必要です。
ただし敢えて言えば、“効率よく鍛える”には一定の思考のパターンに沿って考えるトレーニングをすることが有効と言えます。
ここではそうした思考パターンをご紹介します。
トレーニング1:反対側から考える
何か議論がある時に、そこで出ている意見や結論に対して反対の立場ならなんと反論するかを考えるアプローチです。
私たちは何か意見が提示されると、自分にとって大きな違和感がなければ、そのまま受け入れてしまいがちです。
その方が思考に使うエネルギーの節約になりますし、反論することによる相手との関係悪化リスクを避けることができます。
このあたり「和」を重んじる日本人には特に強い傾向で、誰かと議論をすることと、相手との人間関係とを一緒くたにしてしまいがちです。
しかし、目の前にある問題・意見に対して、それが本当に正しいのかを自分の中で検証せずにすますことは、誰かの意見を鵜呑みにすることにつながります。
目の前にある問題・意見をそれは本当に正しいのか、自分は本当に納得できるのかという目線で見ることは、クリティカル・シンキングと呼ばれる真理追及のために重要な思考方法です。
この記事を読むと分かる事 クリティカルシンキングとは クリティカルシンキングの具体例と解説 おすすめの書籍とトレーニングコンサルタントに必須のクリティカルシンキング(批判的思考)[…]
こうした思考方法を鍛えるためには、敢えて提示された問題・意見や世間の常識と反対の考えをとってみることが有効です。
言い方を変えれば、既成観念にとらわれず、天邪鬼に物事を考えるのです。
例) コロナ感染者が増加しているから飲食店は閉店時間を早めるべき?
11月頃から新型コロナ(COVID19)ウィルスの陽性者が増加し、感染拡大防止のためにアルコールを提供する飲食店の閉店時間を早めるべきという意見を見聞きするようになりました。
これに対して天邪鬼に対応するとしたら、どんな反論が考えられるでしょうか?
例えば以下のような意見が考えられます。
飲食店の営業を認めてしまう以上、閉店時間の短縮は感染防止に大きな効果はない
多くの人は7時過ぎから食事を始めるので、閉店時間が10時だろうが12時だろうが、人が集まって食事をしてしまうことに違いは無い。
確かに2次会3次会は減るかもしれないが、そもそも人が集まって食事することを抑止する力は閉店時間を早めたところで変わらない。
強制力を伴って閉店時間を早めさせる法律も無いので効果は限定的。むしろ経済面のデメリットが大きい
飲食店への自粛要請はあくまでも要請で強制力が無いので、大きな効果が見込めない。
効果が期待できないのに、飲食店経営者にはデメリットばかりで全体として費用対効果が見合わない。
トレーニング2:一般化して考える
特定の問題への対応を考える際に、その問題に限った対応策を考えるだけでなく、その問題の本質は何か、対応策に求められる必要要件は何かを、他の問題についてでも適用できるように一般化して考えてみます。
ある問題に対する対応を考える際、私たちは目の前にある特定の問題を解決することをまず考えます。
その結果、解決策はその問題に関連する外部環境やその問題に関わる関係者のスキルなど、その問題固有の条件があって初めて成立するものになることが多くあります。
思考力を鍛えるトレーニングの際は、こうした特定ケースに閉じた解決策に留まらず、その問題からの学びが他のケースでも適用できるように拡張して考えてみます。
対応が求められる問題を一般化するとどのようなことと言えるか(他の案件でもあり得る問題に言い換えるとどんなことと言えるか)、どんなケースでも適用できるような一般的な対応策としてはどのようなことが考えられるかというように、問題を一般化してみるのです。
一般化することで目の前の問題に対して、他の分野(業界、地域等)での知見を活用できる可能性が高まり、対応策の幅が広がります。
逆に目の前の問題からの学びを今後、他の部分や地域での問題に展開していける可能性も広がります。
ですから一般化して、問題の本質に基づいて考えることは、思考力を高めると同時に問題解決力を高めることにつながります。
例) ハンコは廃止するべき?
菅内閣の新たな政策としてクローズアップされたものに、ハンコの廃止があります。
これまで日本の社会の様々なところで使われてきているハンコが、デジタル化を妨げる要因だとしてハンコ廃止が謳われています。
こうした流れを受けて、多くの役所や企業が届出時の捺印義務を見直したり、電子契約サービスを採用する企業が急増したりしています。
この問題をハンコに留まらず一般化するとどうなるでしょうか?
例えば以下のような2つの本質的な問題が考えられます。
ハンコを使った押印が必要ということは、本人確認のために紙が用いられてる。
情報を紙にして物理的に届けることが必要ということが、デジタル技術の発達で情報のやりとりが高速化・大容量化する世の中のボトルネックとなり、効率性向上の障壁となっています。
つまりハンコの廃止というのは、世の中の生産性・効率性向上へ向けての象徴的手段であり、生産性・効率性向上へ向けて総合的な対策を講じる必要があるというのが問題の本質であると言えます。
デジタル技術を使えばハンコ無しでも本人確認はできるし、その方が効率的も高い
これらは多くの人が感じていたことです。
それでも未だにハンコを求められる書類が多いのはなぜか、より効率的方法があるのになぜ切り替えが進まないのかはハンコの使用に限らない本質的問題です。
そこには、前例踏襲、出る杭は打たれるという、日本の文化の良きにつけ悪しきにつけの特性が係わっているのかもしれません。
トレーニング3:具体化して考える
3つ目のアプローチは、2つ目のアプローチの逆です。
世の中には一般論、抽象論で“XXX問題”と呼ばれるものが数多くあります。
環境問題、経済格差問題、少子高齢化問題、若者の薬物汚染問題・・・など、新聞や週刊誌の見出しで見かけない日は無いくらいです。
こうした問題に対する解決策の提言は、時として抽象的な一般論になりがちです。
例えば地球温暖化問題に対して、「一人一人が二酸化炭素の排出量を削減するよう努力することが必要」といった具合です。
これらの提言は間違ってはいないのですが、あまりに一般論すぎて、じゃあ明日から何をすれば良いのかというアクションプランにつながらないことが往々にしてあります。
ですから、こうした一般論的な議論に出くわした時には、例えば、その問題の解決のために“自分は”明日から何をするのか、“我が社は”明日から何をするのか、といったように自分にとって手触り感のあるレベルまで具体化して考えてみる必要があります。
それが現実的で実効性の高い解決策を産み出す思考につながります。
例) 少子高齢化問題への対応策は?
少子高齢化は日本が直面する大きな問題ですが、その対応策は「子育てをしやすい社会を作ることが必要」程度で終わってしまいがちです。
例えば自分、自社のレベルまで引き下ろして考えてみると、以下のような対応策が見えてくるかもしれません。
我が社では突発的な作業が発生することが多く、担当者は突然の残業が頻繁に発生しているため、子育て中の人は保育園の迎えなどで支障が頻繁に発生する。
突発的作業の発生時に対応できる担当者が一人に特定されることが背景にあるので、案件の担当は常にバディを組む形で相互に補完できるようにするべき。
3つのアプローチを組み合わせることで思考力をより高める
思考力を鍛える3つのアプローチをご紹介しました。
これらのアプローチは一つ一つを実践してみることで、思考力を向上させるトレーニングになりますが、さらに3つを相互に活用することでより強力なトレーニングになります。
ある問題・テーマに関して
- 反対側の立場にたった対応を考えてみる
- そこで出てくる対応策(個別問題の環境に沿った案)を一般論化してみる
- 一度、一般化した答を今度は具体的なレベルにもう一度落とし込んで考えてみる
といったフローを何度か繰り返してみると、出てくる結論はより深いものになってきます。
思考力のトレーニングはいつでもできる
こうした思考力のトレーニングは、日常の様々なところで行うことができます。
朝、新聞を開けば多くのニュースの見出しが目に入りますし、電車に乗れば雑誌の中づり広告が多くの話題を提供しています。
勿論、インターネットを開けば、マイナーなものを含めて世界中のニュースが目に入ってきます。
こうした情報の中から、一つテーマを決めて、自分なりの対応策を思考してみることは思考力を鍛える良いトレーニンングになるはずです。
日常のすき間のわずかな時間でもこうしたトレーニングを続けていけば、思考力は向上していきます。
「継続は力なり」です。
皆さんもトレーニングを続けて、ぜひ、思考力の高い人になって下さい。