コンサルやマーケティング職でよく聞かれる「ブレインストーミング」。
なんとなくプロジェクトが具体化する前のアイデア出しの会議といった意味合いで、理解が浅いまま「ブレスト」という略語を使っていませんか?
- ブレストの正しい定義とは?
- 効果的な進め方は?
実は国際的に手法が体系化されているブレインストーミング。
人と差がつく実践的な知識をご紹介します!
ブレインストーミングとは
そもそもブレインストーミングの意義は“group discussion to produce ideas or solve problems.”
アイデア創出や問題解決のためのグループディスカッションそのものを指す言葉です。
決してBrain(脳)とStorm(嵐)で「脳みそに嵐を吹かせる」なんてことではありません。
ひと言にディスカッションといっても、何のルールもなく進めてもなかなか上手くはいかないもの。
- 他人の批判をしない
- 質より量を出す
といった基本原則があり、体系だった議論の進め方や必要な役割分担が一般的なルールとして確立しています。
ワークショップなどイベントごとの際には短時間かつ10人近い大人数で行うこともありますが、ブレスト本来の目的を遂行するには、4~6名のグループで数時間掛けて議論することが理想的です。
必要なものはホワイトボードなど板書する環境と、出来れば簡単な名札とストップウォッチだけ。
事前学習などの準備がなくとも取り組むことが出来ます。
ブレインストーミングの主なやり方
ブレインストーミングの代表的な進め方として、アイデアの発散・収集方法を3つ紹介します。
希望点列挙法
まず紹介する「希望点列挙法」は、楽観的に「もっとこうしたい!」というポジティブなアイデアを発散していく方法です。
その名のとおり、テーマとなる課題や商品について自由に改善したいと希望するポイントを挙げ、そのためにはどうすべきかアイデアを列挙するアプローチです。
既存の商品やサービスに付加価値をつけていくケースに向いているので、特にマーケティングなどの個別具体的なブレストにはもってこいです。
「あったらいいな!」を言語化していく作業なので、たとえば商品やサービスについて消費者調査のアンケートが手元にある場合や、ネット上の口コミを見ながらブレストするのもおすすめです。
希望点列挙法のポイントは以下の3点です。
- 「こうだったらいいな!」をポジティブに考える
- そのために「どうしたらいいか?」を深掘りする
- 顧客の「あったらいいな!」の声が参考になる
欠点列挙法
続いて「欠点列挙法」とは、「希望点列挙法」とは反対に「もっとこうだったらいいのに」と批判的な視点で考えを深めていく手法です。
既存の商品やサービスに付加価値をつけていくという基本的な考え方は「希望点列挙法」と同じですが、不満・不便・手間などネガティブなフレーズを使ってアイデアを発散する、いわゆるクリティカル・シンキング(批判的思考)のアプローチです。
この記事を読むと分かる事 クリティカルシンキングとは クリティカルシンキングの具体例と解説 おすすめの書籍とトレーニングコンサルタントに必須のクリティカルシンキング(批判的思考)[…]
たとえば同じ商品やサービスでも、不思議なことに2つの手法では異なる成果が得られるので、同じテーマで異なる手法を試してみるなど、対象や参加者によってアプローチを変えるのもおもしろいです。
特に、日頃からポジティブ思考をする人は「欠点列挙法」を、逆にネガティブに考えがちな人は「希望点列挙法」を試してみると、普段とは異なる思考法をブレストで鍛えることができ効果的です。
欠点列挙法のポイントは以下の点です。
- 「こうだったらいいのに!」とネガティブに考える
- 不満・不便・手間などから深掘りする
- 普段の考え方と異なるアプローチもおすすめ
KJ法
KJ法は、東京工業大学名誉教授の川喜田二郎氏が考案した手法で、自らのイニシャル(Kawakita Jiro)を冠しています。
KJ法は前述の2つに比べて有名なので、聞き覚えのある方も多いかと思います。
これまでに紹介した「希望点」や「欠点」のアプローチでひねり出したアイデアを深めたり昇華したりするための手法で、ブレスト後半で活躍します。
ここでは筆記用具に加えて、ポストイット(付箋紙)やカード状の紙をたくさん用意しましょう。
やり方は簡単で、アイデア1つにつき1枚の紙に書き出し、似ているものや関係するアイデアを視覚的に近い位置に配置していきます。
ブレストを進めるにつれ、アイデアがグループ化されていくので、さらなる因果関係や課題の重要度を視覚的に浮き彫りにすることができます。
ポイントはグルーピングを強引に行わないことで、まずは2~3枚の小さなかたまりからはじめましょう。
そして各グループにタイトルを付けたり位置関係を整理したりすることで、徐々に大きなグループを作ったりグループごとの関係性が見えてきます。
思考のプロセスが重要なので、グループ分けできないものはそのまま独立させておいてOKです。
他とはちがうユニークな着眼点を持つこともブレストにおいては重要な要素です。
KJ法に類似した方法として、マインドマップやセブンクロス法があります。
マインドマップは、ホワイトボードの中心にメインテーマを書いて、それに関連するアイデアを放射状に外側にどんどん書き足していくことで課題の全体像を把握することを促すもの。
セブンクロスとは、アイデアを7つ(もしくはそれ以下)のカテゴリーに分けて重要なカテゴリーから左から右へ、さらにカテゴリー内の重要度を上から下へ並べることで優先度の高いアイデアを左上に可視化する手法です。
KJ法のうまく活用するポイントは以下の3つです。
- 量産したアイデアを効果的に深めていく手法
- 類似項目や因果関係、重要度をポストイットのグルーピングで表現する
- マインドマップやセブンクロス法もおすすめ
ブレインストーミングの進め方
続いてこれまでの原則に基づき、具体的にブレストを進めていく方法を解説します。
立場や性格が異なる人に参加してもらう
グループを形成する際に重要なのは、メンバー間の多様性を保つことです。
たとえば「首都圏出身の男性」ばかりで根詰めるよりも、出身や性別、タイプや立場の異なる人が加わることでより多面的はアイデアが創出されることが期待できます。
同期研修や学校など同じコミュニティ内で考える際も、以下のような観点で出来る限り異なる立場や性格が集まるグループを心掛けましょう。
- 所属、役職
- 性別、出身地
- 性格(アイデア発散型or作業型)
会議の目的を具体化・明確化する
ブレインストーミングは質より量を重視するプロセスですが、大前提としてメンバー間が十分に目的を共有していることが重要です。
言わずもがな、同じテーマや商品について議論を深めていくので、前提条件や用いる手法は最初の数分間で簡単に整理するようにしましょう。
議論の最初にそのセッションの目的をすり合わせ、具体化・明確化した上でホワイトボードの右上に書き留めメンバーの目に常に入るようにしておくのもおすすめです。
制限時間を設ける
続いて、タイムマネジメントも重要なポイントです。
実際の議論がはじまると全員が集中してアイデアの発散と収れんに取組むので、つい時間を忘れて議論を重ねてしまいます。
そうならないために、議論のタイムリミットを決めておくようにしましょう。
そのグループにおけるグランドルールとして、アイデアを発散するのにX分、深掘りするのにX分と時間を決めておくのがおすすめです。
基本的にはアイデアの発散と深掘りには半々の時間を設けるのが無難ですが、テーマの咀嚼に時間が掛かりそうな場合は前半部分を多めに設けるのも一手です。
また、アイデアが出きったと合意できた時点で早めに深掘りフェーズに入るなど臨機応変に動けるように、厳密に管理しすぎないのもポイントです。
ブレインストーミングの注意点
それでは、より具体的にブレストを進める際の注意点を解説してゆきます。
意見を批判しない
大前提として、出てきたアイデアはすべて肯定します。
ブレストの目的は多様なアイデアを集めることなので、現実世界ではまず実現不可能と思われるアイデアでも机上の議論であれば予算や組織の都合を考える必要はありません。
メンバーの意見だけでなく、自分自身の思考も批判したり抑制したりせずどんどん冒険的に発言するようにしましょう。
私たちは普段あらゆる制限の中で生きているので、自分の中の思考の枠組みから意識的に解放されることもブレストの醍醐味です。
最初はイケていないと思ったアイデアでも、他のメンバーとの議論により思わぬ方向に広がったり想像以上に発展したりすることもあります。
とにかく意見の量を増やす
アイデアの「量」も意識しましょう。
ブレスト後半で効果的にアイデアをまとめたり関連付けさせたりしていくために、ブレスト前半ではとにかくたくさんのアイデアを発散していくのが重要です。
普段の議論では発言する前に色々と細部を詰めたり表現に気を付けたりしてしまうところ、ブレストの場ではまだ粗い発想もどんどん口に出すのが正攻法です。
議論の過程で、自信がなかった部分は他のメンバーが補強してくれることも多々あるので「質より量」を意識しましょう。
最後まで結論を出さない
最後に、結論を出さないことも意識しましょう。
内容を他者に紹介する際にも、議論をひとつの方向に収束して決定事項として伝えるのではなく「XXという観点、YYという観点、そしてZZという観点が出ました」というようにアイデアの方向性を紹介するだけでよいのです。
ブレストにおいては、判断や決断をすることはその時点で思考が止まってしまうのでNG。
実務における打合せとは性質が異なることを留意し、思う存分、思考と議論そのものに集中しましょう。
失敗しないための工夫
それでは実際にどのようにブレストを進めると失敗しにくいか、工夫できる点を紹介します。
司会進行役と書記を決める
簡単なことですが、グループ内の司会進行役と書記を決めてから取り組みましょう。
司会進行役は最初に発言する人を指名したり、議論が脱線しかけたときに目的の再確認を促したりします。
また、発言の少ない人に発言を促したりすることで、議論が円滑に進むようにファシリテーションする役割です。
また、集中力を維持するために適切なタイミングで休憩を促すのも司会進行役のテクニックです。
時間管理を行うタイムマネージャーを個別で設けることもありますが、司会進行役が「あと〇分」「そろそろ意見をまとめましょう」などと時間管理を兼ねても構いません。
続いて、書記は発言を板書していく役割です。
一見簡単に見えますが、あまたある論旨を適確に書き出すことが求められ、またそれを基にメンバーは議論を振り返ったり深めたりしていくので、議論の質を左右する重要な役割です。
ブレストの原則を肝に銘じ、質より量を意識して取り組みましょう。
いわずもがな、司会進行役や書記などの役職者も自分自身の意見をいうことが禁じられている訳ではありません。
必要があればどんどんメンバーとして発言しましょう。
発表された意見を記録する
ブレストの失敗談としてよくあるのが「どこまで発言したのか分からなくなり堂々巡りになった」というもの。
アイデアが重複して広がらないのも、アイデア同士を深めたり繋げたりできないのも、きちんと記録を残していくのが有効な解決策です。
そのためには、ホワイトボードや模造紙、そしてポストイットと筆記道具など基本的な道具の準備を怠らないようにしましょう。
立派な設備でなくカレンダーやチラシの裏紙などでも十分ですが、議論の際に「文字が細くて読めない」や「文字の大きさと議論の大小が混同される」ことがないように太めのペンを準備するのがおすすめです。
ブレインストーミング導入が目的にならないよう気をつける
ビジネスパーソンや大学生にとって身近なアイデア創出技法であるブレインストーミング。
本記事では多様なメンバーと共に議論する際にも効果的なパフォーマンスが出るためのテクニックを紹介しました。
しかしながら、ブレストの最終成果は「課題解決」です。
ブレストの手法を導入したり、アイデアの数を競ったりすることが目的では決してありません。
テクニックを駆使しながらも、大目的を忘れずに取り組むようにしましょう。