みなさんの会社では物品やサービスを他社から購入する際、相見積もりを取っていますか?
コロナ禍で売上が伸びず、コスト削減を求められる企業にとって、相見積もりを利用した“賢い調達”は必須です。
一方で、相見積もりを行う際には一定のルール・マナーがあり、それを知らないと最適な調達ができないばかりか参加してくれた取引先との関係を壊してしますリスクもあります。
この記事では相見積もりのメリットや、担当者が知っておくべきポイントをご紹介します。
相見積もりとは?
相見積もりは商品・サービスを購入する際に、複数の業者(サプライヤー)から見積を取得し、価格や商品・サービスの品質などを比較して調達先を決定する手法を指す用語です。
ビジネスの現場では相見積もりを縮めて「あいみつ」と呼ばれることもあります。
入札との違いは?
複数の取引先が価格を提示すると聞いて「入札」とどう違うのかと思う人もいるかもしれません。
複数の企業からの提案を比べてどこから買うかを決めるという点、本質的には相見積もりも入札も同じものです。
ただ、一般的に入札と呼ばれるのは、以下のようなケースが多いようです。
- 官公庁の調達や、民間でも公共性の高い事業向けの調達に関するケース
- 民間企業の調達でも大規模なケース
- 価格提案をするための参加者を限らず、一般に広く提案を求めるケース(官公庁でいう一般競争入札)
相見積もりのプロセス
一般的に相見積もりは以下のようなプロセスで進みます。
企業によって細かな段取りは異なりますが、主要な流れはだいたい同じです。
- 調達プロセスのスケジュール(特に業者からの見積書締切日)を決める
- 調達の仕様・スペックと調達数量を決め、仕様書にまとめる
- 調達先業者の必要要件を決め、見積もりを依頼する業者を選定する
- 依頼先業者に調達の内容を説明し、見積もり提出を依頼する(この後、見積書受領までの間には、仕様書の内容などについて業者からの質問対応が発生することもある)
- 業者からの見積書を受領する(この後、見積書の内容に疑問点などがあれば業者に確認の上、必要であれば(業者が仕様書の内容を誤解しているケースなど)再提出を求める)
- 見積の内容を比較し、調達先を決定する
- 選定結果を相見積もり参加者に連絡する
ビジネスにおいて相見積もりを取るメリット
相見積もりをとることで、複数の業者の価格を比較することが可能になり、結果として調達仕様や数量に応じた市場のベストプライスに近い価格で調達することが可能になります。
と言っても「本当に必要?」と思う人も多いと思いますので、よくある疑問にお答えします。
ベストプライスは相見積もりを取らなくてもわかるのでは?
「相見積もりを取らなくても他社にヒアリングしたり、ネットで調べたりすれば最安値はわかる」と思う人もいるかもしれません。
しかし例えば、他社が単価100円で買っているという情報があっても、他社の調達量は100個で自社は100,000個を調達する状況なら単価100円が妥当とは限りません。
世の中では購入量が増えると、ボリュームディスカウントで単価が下がることは一般的です。
“ハードネゴ”すれば価格は下がるのでは?
「相見積もりを取らなくても、業者なんて“切り替えるぞ”とハードネゴすれば値下げしてくる」という意見はどうでしょうか?
確かにそうした事象が起こり得るのは事実です。
しかし業者も馬鹿ではありません。
それどころか業者は対象商品・サービスの“プロ”であり、市場の相場情報を把握しています。
市場に50円という業者もいるのを知りながら「御社だけ特別に」とか「今回だけ特別に」と言って100円から80円に値下げするといったことは良くある話です。
1社だけと交渉していたのでは、こうした相場に関する情報の非対称性を克服するのは困難です。
相見積もりを取る際のルール・マナー
メリットの大きな相見積もりですが、実施するには相応のルールやマナーがあります。
それを知らないと相見積もりのメリットを活用できなかったり、中長期的な自社の調達力を毀損してしまったりする可能性があります。
必ず同じ条件提示する
業者が見積もりを作成する前提となる条件・仕様は、各社に同じものを提示する必要があります。
見積もりを作る際にA社は100個、B社は1,000個の調達量を前提にしていたのでは、A社とB社の価格を比較しても意味がありませんから、条件を揃えて見積もりを求めることは必須です。
尚、調達数量のような重要な情報であれば発注者側も当然意識しますが、発注者側が想定していなかった条件が受注者にとっては価格決定に対して大きなインパクトがあるということもあります。
できれば事前に業者にヒアリングするなどして、価格決定にインパクトのある条件を明らかにし、そうした条件については仕様書で統一して相見積もりを求めることが望ましいです。
また、提案を比較したい条項について、提案フォーマットを定めてそのフォーマットで提案してもらうことも有効です。
A社は提案金額を総額XX万円とのみ示し、B社は商品A:X万円、商品B:Y万円、配送料Z万円と示すといったことは良くあります。
比較の手間や、その後の価格交渉に必要な情報を得ることも考慮して、提案フォーマットまで指定することをお勧めします。
相見積もりであることを先に伝えておく
当たり前のことですが業者の立場に立ってみれば、自社しか見積もりを出さないとわかれば“ベストプライス”を提示するインセンティブは薄れます。
従って、相見積もりであることを業者に伝えて、競合が存在する前提で見積もりを作成してもらうことは重要です。
業者の担当者の立場になってみると、他社と比較されるということは取引を失う可能性があるということであり“ベストプライス”を提示するインセンティブになります。
多くの営業担当者は社内を説得できるのであれば、取引先の要望に応えたいという意識が働くものです。
他社との相見積もりであるという情報は、営業担当者が社内を説得する材料になり得るものであり“ベストプライス”を引き出す大きな要因になります。
他社の名前やサービス名は伏せる
相見積もりであることを業者に通知することは必要ですが、一方で他にどの会社から見積もりを取得するのかを開示する必要はありません。
相見積もりであることを知ると、多くの業者は「他にはどちらの会社に声をかけているのでしょう」などと競合相手を探ってきます。
相手は業界で何年も生き抜いてきている業者です。
A社からも見積もりを取ると聞けば「A社であれば通常はXX円くらいで提示するはず」という“相場観”が働きます。
ですから競合が誰かという情報を与えることは、業者の価格提示の自由度を高め、調達する側にとっては不利に働くのです。
相見積もりを断る際のマナー
相見積もりの提案が揃ったら提案内容(価格、品質、取引条件など)を比較検討し、発注先業者を決定します。
そして、発注先に選ばなかった業者を断る際にもマナーがあります。
断る連絡を必ず入れる
相見積もりに限らず、人事の採用面接でも、恋愛の告白でも「断る」というのは気分の重い行為です。
担当者は発注先に決めた業者との契約手続などしなければならないこともある中で、断りの連絡をついつい後回しにしてしまいがちです。
しかし結果をきちんと連絡することまでが相見積もりのプロセスです。
相手業者も忙しい中、時間を使って提案をしてきてくれたのですから、きちんと結果を連絡するべきです。
何故、断りの連絡をきちんとしなければならないのでしょうか?
理由は主に以下のようなものです。
- 今回、業者に悪い印象を与えてしまうと、次回、相見積もりを行う際にベストプライスを提示してくれない、見積もりの提出さえしてくれないといったリスクがある。
- 業者同士はライバルである一方で、同じ業界の仲間でもあり業界内で情報交換も行っている。自社が「お行儀の悪い」発注先として業界内で認識されてしまうと、将来の調達活動に支障をきたす恐れがある。
- 自部門にとっては調達先である業者が、一方では自社の他部門の顧客であるケースはよくある。調達先の一社と捉えて礼を失した対応をしたことが、回りまわって自社の顧客を失うことにつながることもある。
断る理由を説明する
断る際には、出来るだけ理由を説明しましょう。
相手業者の担当者は今回の見積もりの結果を社内で報告する必要があります。
その際、当然ながら理由を説明する必要があるので、断りの連絡をする際にはできるだけ合理的に理由を説明することが望ましいと言えます。
理由としてよくあるものとしては、以下があります。
- 価格
- 商品・サービスの品質・内容
- 納期やアフターサービスなどの付帯条件
- 支払期日、方法(現金払い、手形払い)などの支払条件
- 今回の調達案件とは別の「総合取引」状況(自社の他部門の顧客となっているなど)
もちろん、担当者として調達先決定理由を合理的に説明できないケースもあります(例:社長の“鶴の一声”など)。
それでも上記のような考えられる理由を組み合わせながら、業者の担当者が社内に説明できるように説明することが、次回以降の相見積もりにも参加してもらうために必要です。
尚、例えば「価格面で他社が優位だったので」と説明したようなケースで、業者の担当者から「いくらだったのですか?」と聞かれるケースがあります。
こうしたケースに、「A社さんからXX円の提示がありました」と正確な情報を開示する必要はありません。
こうした情報は、自社がいくらで調達したのかという情報を開示することですから、次回以降の調達に悪影響を及ぼすリスクがあります。
感謝の気持ちを伝える
断りの連絡は、業者から「先日の見積もりの結果は?」と問い合わせられてからではなく、こちらから行うようにします。
その際にはもちろん、今回の相見積もりに提案してもらったことに対する感謝を伝えましょう。
「こちらは買ってやる側なのだから、業者は提案をして当たり前」といった態度は、次回以降の調達で相見積もりをする際に、良い提案をしてくれなかったり、提案をしてくれさえしなかったりという結果につながりかねません。
ビジネスパーソンとしての礼節を尽くしましょう。
相見積もりはマナー違反ではないので活用すべき
義理や人情がモノを言う日本社会において、複数の業者の提案を比べる相見積もりは“後ろめたい”行為に受け止められがちです。
しかし、自社にとって最適な商品を最適な取引条件で調達することは、ビジネスとして当然の行動です。
それどころか、自社の株主から預かった資本を有効に活用するという観点でみれば、比較もせずに調達をする方が“後ろめたい”行為であるとも言えます。
きちんとした手順で行えば、相見積もりはマナー違反などではなく、とても有効な調達手法です。
是非、積極的に活用して下さい。