この記事では原価とは何か、原価計算は何のために、どうやって行うのかについて簡単にご説明します。
企業会計について触れた資料などを読むと原価計算という言葉が出てくることがあります。
特に製造業では良く耳にする言葉ですが、簿記2級以上を学んだ人でなければ何をすることなのかピンと来ないかもしれません。
原価計算は経理部門の問題のように思われる方もいるかもしれません。
しかし原価に対する理解は経営改善を考える際に必須のものであり、経営部門だけでなく企画部門、製造部門、さらには価格設定を行う営業関連部門にとっても必要です。
この記事を読んでおけば社内資料に「原価」とか「原価計算」といった言葉が出てきても、戸惑わないだけの最低限の知識が身に付きます。
原価計算とは
商売をする際に利益を得ることは重要な目的です。
そして利益=売上-コストであることは常識としてみんなが知っています。
ではコストはどうやって把握するのでしょうか?
日々の事業の中で今期支払ったお金はすべて今期のコストなのでしょうか?
「商品を作ったり提供したりするのにかかったお金を数えればいいのだから簡単だ」と思うかもしれません。
でも「かかったお金」を「数える」のは、実はそれほど簡単なことではありません。
- 例えば今後10年間使う予定で何千万円もする機械を今期購入したら、その購入に費やしたお金は全部今期の原価なのでしょうか?
- 昨期中に購入した材料の単価と、今期購入した材料の単価が違っている時、今期使用した材料の原価はどちらの単価を使うべきなのでしょうか?
- ある機械で製品Aと製品Bを作っている場合、その機械を動かくのにかかった電気代はどちらの製品のコストなのでしょうか?
原価計算とは売上を得るためにかかったコストを把握することです。
そのためには、何をコスト(原価)と位置付けるのかを定義し、それぞれの原価の種類の特性に応じて適切な方法で原価の金額を求める必要があります。
こうしたコスト把握を実行するプロセスが原価計算なのです。
原価の分類(1):事業プロセスでの分類
原価はいくつかのやり方で分類することができます。
まずは、そのコストが関連する事業のプロセスによって分類する方法をご紹介します。
製造業の場合、製品を製造し、顧客(最終顧客もしくは卸業者や代理店などの中間顧客)に販売します。
この時、製造に関連する原価は「製造原価」と呼ばれます。
そして製造された製品を販売する際に発生したコスト(=販売費と一般管理費)も含め、製品の販売で得た売上に対応するすべての原価を総原価と呼びます。
原価の分類(2):形態で分類すると3種類
次に形態による原価の定義を考えましょう。
原価を形態で分けると大きく3種類になります。
- 材料費
- 労務費
- 経費
それぞれについて以下で説明します。
①材料費
材料費は製品を製造するために使用する材料や原料に要した費用です。
通常は製品を製造するほど総額が大きくなっていきます。
ケーキ屋さんがケーキを作るために小麦粉、卵、砂糖などを消費すれば、それらは材料費となります。
またケーキを焼くためのオーブンを動かすための光熱費・燃料費や、店員さんが使う手袋などの消耗品、生クリームを攪拌するためのミキサー(ただし1万円以内)などの機械の購入費も材料費となります。
②労務費
製品を製造したり、サービスを提供したりするためには労働が発生します。
この労働に対するコストが労務費です。
労務費には製造現場で働く人の給与、賞与などの手当の他、退職金の繰入額や福利厚生費も含まれます。
正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトなどの非正規社員に支払われる費用も労務費に含まれます。
ただし労務費は製品・サービスを製造し販売するまでに発生したコストですので、製造に直接かかわった従業員に関するコストが対象となります。
総務や経理などの間接部門に従事する従業員のコストは労務費には含めません。
③経費
上記で説明した材料費、労務費以外で製造に必要な費用が経費であり、内容は多岐にわたります。
工場などの製造施設の地代家賃、施設を維持するための光熱費、保険料、製造設備の減価償却費なども経費として原価計上されます。
施設維持の光熱費については、材料費との区別に留意が必要です。
上記①材料費のケーキ屋さんの事例で、オーブンの光熱費は材料費であると説明したように、製品の製造に使う機械等を動かすための光熱費は材料費、機械などを設置する工場の維持に関する光熱費は経費というような区別が一般的です。
原価の分類(3):直接費と間接費
製造に要するコストの中には一個一個の製品と直接紐づけし金額を把握できるものもありますが、複数の製品にまたがって発生したり、製造現場以外で発生したりするために直接紐づけができないコストもあります。
前者を直接費、後者を間接費と言います。
例えばケーキ屋さんの場合、ケーキごとにレシピで分量が決まっていて1個のケーキを作るために必要な小麦粉、牛乳や砂糖の量を特定できるので、それらの材料費がいくらになるかを把握することができます。
従って、これらは直接費となります。
一方、ケーキ工場で使われる電気代は様々なケーキを作る際にミキサーやオーブンで使われるだけでなく、事務スペースなども含む工場内全体の照明にも使われるので、個別のケーキに直接紐付けするのは困難です。
こうした個別の製品との直接的な紐付けができないコストは間接費となります。
原価計算の目的
この記事の冒頭で利益=売上-コストだから、コストを把握することが大切だという話をしました。
コストを把握すると一言で言いましたが、コスト把握(=原価計算)を行う目的は細かく言えば5つ挙げることができます。
これらは1962年に旧大蔵省が公表した会計基準であり、今でも会計に関する基本的文書となっている「原価計算基準」に挙げられています。
目的①:財務諸表の作成
原価計算の目的としてまず挙げられるのは対外的に公表する財務諸表(決算書)の作成です。
株主、金融機関、取引先など企業の利害関係者に向けて、企業活動の結果を報告するために財務諸表は作成されます。
主要な財務諸表の一つである損益計算書では売上や利益が報告されますが、その中で用いられている勘定科目には売上原価が含まれます。
またもう一つの重要書類である貸借対照表の中では、棚卸資産(製品在庫、仕掛在庫、原材料)の金額を報告します。
これらの勘定科目を算出するには、各製品の製造にどれだけのコストがかかったのかを明らかにしなくてはならないため、原価計算が必要になります。
例えば下の図表は東芝の有価証券報告書にある連結損益計算書です。
売上高についての実績に続いて、売上原価に関する実績が開示されています。
このように売上原価についての情報は財務諸表において欠かせない要素であるため、原価計算の適正な実施が求められます。
目的②:価格の設定
当たり前ですが利益をあげるためには製品の販売価格が製造コストを上回っている必要があります。
従って、正しい製造コストを把握することは価格設定を考える上でも必要です。
100円で売る製品の製造コストが90円なのか80円なのかで、利益率は10%も違うことになるのです。
また、新製品を市場に出す際にいくらの値段をつけるかを考える時に製造コストをきちんと把握できていれば
「かかったコストは1個80円だから15%の利益を加えて92円で売ろう」
といった価格設定が可能になります。
適正利潤を織り込んだ適正価格を設定するために、原価を正しく把握することは大変重要なことなのです。
目的③:経営計画の策定・予算の編成
自社の事業をどのように成長させていくか、どのように業務を遂行していくかに関して、多くの企業が経営計画を策定しています。
そしてその経営計画を具体的に数字に落としたものとして、予算を編成しています。
経営計画ではよく「202X年に営業利益をXX億円にする」とか、「X年後に営業利益率をXX%に拡大させる」などの中長期目標が示されます。
そして、こうした経営計画に沿って、毎年の年度予算が編成されます。
経営計画を策定するにしても、年度予算を編成するにしても、コストは計画や予算の中の重要な要素です。
現状はどのくらいのコストがかかっているのかを把握することは、今後コストをどうしたいのかの計画を作ることの前提になります。
目的④:予算の実行管理
多くの企業で、週次、月次、年次、四半期、半期、年次、更に中長期と様々な予算が立案されており、その予算に沿って企業活動が進められています。
予算の目標利益を達成するためには、実現された売上やコストが予算目標に対してどのように進捗しているかを管理する必要があります。
所謂、予実管理です。
このプロセスを実行するためには実際にかかったコストを捕捉する必要があるので、原価計算が必要となります。
目的⑤:コストの管理・改善
コスト削減はどの企業にとっても重要な経営課題です。
しかしそもそも現在どれだけのコストがかかっているのかがわからなければ、コスト削減の余地があるのか、あるとしたらどの位の削減が可能なのかを検討することもできません。
例えば外部の部品メーカーから購入しているある部品を、自社で内製化することでコスト削減できないかを検討するとしましょう。
この時、1つの製品の製造に使われる部品数やそのコストと、内製化する時に必要な部品の材料費や人件費が把握できなければ、内製化によって本当にコストが下がるのか、いくらコストが下がるのかはわかりません。
一般論で言えば、定量的に測れないものは改善策を打ってもそれが成功だったかわかりません。
コストについても同じことで、コストを改善しようと思ったらまずそのコストを数字で把握することが必要となるのです。
その意味で原価計算はコストの改善活動を検討する際の大前提と言えます。
原価計算の種類
原価計算はその目的に応じて、以下の3つに分類されます。
- 実際原価計算
- 標準原価計算
- 直接原価計算
②の実際原価計算は更に、1つもしくは1単位の製品ごとの原価を計算する①-A.個別原価計算と、一定期間に発生した製造原価をその期間内の生産量で按分をして製品ごとの原価を求める①-B.総合原価計算に分けることができます。
①実際原価計算
製品を製造するために実際に発生したコストを集計して行う原価計算です。
発生した材料費、労務費、経費を全て集計するので、ある意味で一番正確に原価を集計する方法と言えます。
一方で実際に発生したコストのみを集計するので、実際にコストが発生しなければ原価を計算することができません。
結果として原価を把握できるまでに比較的長い時間を要することになります。
また、材料などの価格はモノによって市場の相場などにより時期によって大きな変動がありますし、労務費も操業度・稼働率によって変動します。
こうした場合、結果として同じ製品の原価が時期によって大きく変動する余地があり安定しないため、予算の策定やコスト改善のために原価を利用する場合には不便なところがあります。
①-A.個別原価計算
製品ごとにかかった原価を集計する方法です。
顧客からの個別注文に応じて製品を生産する受注生産型の製品に用いられます。
各注文に対する製造指図書単位でコストを配賦していきます。
注文単位でコストを計算するので、製品ごとの利益把握を正確に行うことができます。
①-B.総合原価計算
期間ごとに対象製品の製造にかかったコストを製品の生産量で割って、製品ごとの原価を集計する方法です。
製品を連続して量産する場合に用いられる方法で、多くの企業で採用されています。
総合原価計算はさらに以下の3つに分類することが出来ます。
スクロールできます→
単純総合原価計算 | 1つの製品を量産する時に用いられます |
---|---|
等級別総合原価計算 | 1つの製品を連続して量産しますが、サイズや機能などで等級を分ける場合にも用いられます |
組別総合原価計算 | 同じ種類の製品ですが、デザインなどを変えて量産する時に用いられます |
②標準原価計算
標準原価は目標原価とも呼ばれます。
材料の使用量や労働時間なおの実績データや、原材料価格などの市場データなどをもとにして、合理的な手法によって算出する仮の原価です。
予定どおりに製造が進めば達成される原価の目標とも言えます。
予算の編成などではこの標準原価を利用することで、把握までに時間がかかる実際原価の欠点をカバーできます。
標準原価の設定においては、材料費、労務費、経費の目安を設定し、適宜見直していきます。
標準原価方式を採用する場合、実際原価を毎月集計する必要は無くなり標準原価を用いて原価を記帳します。
事業年度での売上原価は、年度末に標準原価と①で説明した実際原価の差異を求めた上で、標準原価ベースでの売上原価から差異を調整する形で計算します。
標準原価を実際原価と比較すれば、事業の効率性や問題点をチェックすることができます。
従ってコスト改善の活動などに利用できます。
③直接原価計算
製品やサービスの生産・売上に直接関係する費用のみで原価計算を行います。
直接関係する費用というのは、製品・サービスの生産・売上の量に応じて変動する費用(変動費)を指します。
例えば原材料費、製造の生産量と連動する雇用形態の労働者の労務費や、生産拡大による残業代などは直接関係する費用として原価に算入されます。
一方、生産・売上に関係無く発生する費用、工場などの地代家賃や機械のリース料、正社員の定額基本給などは固定費となりますので原価に参入しません。
直接原価計算によって算出した原価(変動費)を基に算出した粗利率(=1-直接原価÷売上高)で固定費を割ると、対象期間にかかった固定費を製品売上から得る粗利で回収するにはどの位の売上高が必要かを求めることができます。
これが所謂、損益分岐点分析です。
直接原価に基づいて粗利率を算出し、損益分岐点分析を行うことで、企業活動を持続的に行うためにはどの位の売上が必要になるのかの目標・計画を策定することが可能となります。
原価計算方法
では、原価計算をどのように行っていくのかを説明します。
原価計算のプロセスは、以下の3段階に分けられます。
- 費目別計算
- 部門別計算
- 製品別計算
①費目別計算
最初は費目別計算です。
計算期間内に発生したコストを発生形態に応じて、材料費、労務費、経費に分類し、記録・集計します。
さらにそれらのコストを直接費と間接費に分類します。
具体的には以下のような手順を踏んで進めることになります。
スクロールできます→
①原価要素の識別 | 企業活動で発生したコストを、製造に関するものとそれ以外のものに分類します |
---|---|
②費目の分類 | 上記①で製造に関するコストと分類したものを、直接材料費、間接材料費、直接労務費、間接労務費、直接経費、間接経費のどれに該当するか分類します |
③伝票や仕分帳への記帳 | 社内の規定に沿った勘定科目を使って記帳します |
②部門別計算
費目別に集計されたコストのうち、製造に関する間接費を社内の部門別に配賦するプロセスです。
一定の根拠に基づいて、製造間接費を関連する部門別に割り当てます。
例えば製造ラインの数や合計稼働時間、製造担当の行員数、工場内の専有面積、使用した材料の量などを使って、製造間接費を加工部門と組み立て部門に割り当てるといったイメージです。
配賦の根拠はできるだけ合理的なものを使うようにします。
例えば自動化が進んでいて機械作業が製造工程の中心なのであれば機械の稼働時間をベースに使うのが合理的でしょうし、手作業中心ということであれば工員の稼働時間をベースに使う方が合理的でしょう。
また、こうした根拠となる情報については、定期的に情報を計測するようにして妥当性を担保することが必要となります。
こうして部門別に製造間接費を配賦することで、各部門で発生する原価を把握できるようになるため、各部門の生産コストが計画どおりに進んでいるかといった生産コスト管理がやりやすくなります。
③製品別計算
製品1単位にかかる原価を求めるプロセスです。
ある製品に関する原価合計を集計した上で、それぞれの製品の製造の実態(受注生産か大量生産かなど)に応じ、個別原価計算や総合原価計算を使って原価を求めたい製品のグループごとに1単位の原価を算出します。
まずこれまでに計算した直接費(材料費、労務費、経費)と各部門の製造間接費を合計します。
その上で、個別原価計算の対象製品であれば製造指図書ごと、総合原価計算であれば等級別やデザインなどの製品種類別などで原価を配賦します。
実態に即した原価計算は経営改善につながる
ここまで原価計算のプロセスについての基本的な流れを説明してきました。
途中でも触れましたが、自社の製品・サービスの原価(コスト)を正しく把握することは、自社の経営を改善することの前提となります。
このことは、文中で紹介した「原価計算基準」で挙げられている原価計算の5つの目的のうち、財務諸表の作成目的以外は企業内部での経営管理の向上(管理会計の向上)に関するものであることからも窺い知ることができます。
「測れないものは改善できない」というのは経営改善を考える時の基本です。
適正な原価計算の知識を持って経営の実態を正しく把握することは経営改善の必須要件の一つと言えるため、原価計算の知識を持つことはとても重要なのです。