ニュースなどでよく聞く「ジョイント・ベンチャー」という言葉。
聞いたことがある人も、2つ以上の会社が一緒に事業をすることといったざっくりとした理解でやり過ごしていませんか?
実は明確な定義があり、それは買収や合併、資本提携とは厳密には異なります。
- ジョイント・ベンチャーのポイントは?
- メリットや注意点、有名な事例は?
この記事では、皆さんが一読するだけでまるで実務を経験した人のようにしっかり理解できるよう解説していきます!
合弁企業(ジョイント・ベンチャー)とは
ジョイント・ベンチャーとは日本語でいうと「合弁企業」。
略語では「JV(ジェイブイ)」といわれることもありますが、複数の会社が共同出資のもと、新規事業を立ち上げるための独立した事業体を指します。
買収や提携との違い
合弁企業と近いビジネススキームとして「事業買収」や「業務提携」がありますが、これらは似て非なるものなので、違いを説明していきます。
「事業買収」は、一方の会社がもう一方の会社についてその事業や株式を買い取ることです。
2つ以上の事業体が資本関係によってひとつになる大きな決断なので影響力が強く、一度決まればリソースを共有し合うことで一気に事業を統合できます。
デメリットとしては、組織文化のすり合わせなど事業以外の部分の調整にも多大な時間がかかることです。
「業務提携」は、あくまでも資本関係のない協業のこと。
合意書や覚書を交わすだけでよいので比較的身軽に取り掛かることが出来るのが魅力です。
しかしながら、双方に拘束力がないので情報提供や新事業を決断していく強制力もないので、将来的な資本提携を念頭に様子見をする場合などに有効です。
対して「合弁企業(ジョイント・ベンチャー)」はこれらのいいとこ取りともいえる手法で、概要は以下のとおりです。
- 複数の企業がそれぞれに出資し、新会社を共同経営する
- 既存企業の株式の一部を買収し、双方の経営者が共同経営をする
いずれの場合も複数企業が事業を経営することになり、一般的には①のケースがほとんど。
新会社においては参画企業から資本が提供され、社員が出向し合う形で運営されます。
ジョイントベンチャーの設立手順
ジョイント・ベンチャーの設立手順を簡単にご紹介します。
1,パートナー企業のリサーチ
ジョイント・ベンチャーの設立はこれまで一緒に仕事をして信頼関係のある相手と行うことが多いですが、たとえば海外進出や新しい領域へのチャレンジを狙う場合には、イチからパートナー企業のリサーチを行うこともあります。
経営パートナーとなるため、中長期的な財務健全性や相手の業界の慣習や関連法など、確認しておくべき項目は膨大です。
2,基本合意の締結
トップマネジメントレベルまで話が通ったら、基本合意を結ぶことで具体的な議論に入ります。
この段階では相互に情報をある程度開示できるので、今後の事業戦略や企業ビジョン、互いに不利になる制約がないか、そしてトラブル発生時の対応策などの大枠をすり合わせていきます。
3,合弁会社設立に関する契約の締結
ここまできたら、あとは大詰め。
ジョイント・ベンチャーとして新しい会社を設立するための契約を煮詰めます。
以下が主な項目ですが、どちらかが不利益を被ることがないように保有株式や役員の比率、また経費負担や配当などを厳密に決定していきます。
- 目的・概要
- 株式の保有比率
- 重要事項
- 経費負担
- 余剰金の配当
両者がフラットに推し進める合弁会社設立であれば、比率は基本的に50:50で話を進めることが出来ます。
一方で事業規模に大きな差がある場合や3社以上で議論を進めていくケースでは、互いに納得のいくまで議論が必要です。
また経費負担の項目に含まれるのは現金だけではなく、たとえばどちらが業務スペースを提供するか、あるいは新たにオフィスを借りるべきかといった項目も決めていきます。
ジョイントベンチャーの注意点
いいとこ取りに見えるジョイント・ベンチャーですが、ここでデメリットや失敗要因にも触れておきます。
まずは、文化や慣習の異なる複数の参加企業が議論に加わるため、意思決定に時間が掛かりやすいです。
新規事業においてはスピード感が求められる中、ちょっとした確認にも出身企業ごとのカラーが反映されたり新たなチームビルドが求められたりするのは、煩わしく感じる人もいると思います。
次に、出資比率に応じてしか利益を受け取れない点です。
事業が軌道に乗ってからはまだよいですが、苦しい時期には薄利をさらに参画企業で配分するため、旨味が失われてしまいます。
最後に、パートナー企業の悪い影響を受けるリスクです。
資本関係を結んでいる以上、たとえば不祥事や株価下落、あるいは情報漏洩など、相手企業のパフォーマンスによってジョイント・ベンチャーまでネガティブな影響を受ける可能性があります。
お互いの事業成長のための合弁会社において、相手先からネガティブな影響を受けるのは本末転倒です。
ジョイントベンチャーの事例
より具体的なイメージを持っていただくために、日本におけるジョイント・ベンチャーの事例を紹介します。
ユニクロとビックカメラによる「ビックロ」
まず記憶に新しいのは、アパレルブランド「ユニクロ」と、大手家電量販店「ビックカメラ」が共同出店した「ビックロ」です。
大企業同士の合弁かつ大胆な発想とネーミングで、新宿の一頭地の店舗は大きな注目を集めました。
衣類と家電を同じ場所で買うというのは斬新に聞こえますが、いずれも「手頃な値段で高品質なものを提供する」というコンセプトで、休日の家族連れや外国人旅行客などターゲット層も近いことが戦略でした。
既存の出店場所も重複しており「衣類のついでに家電を買う」「家電のついでに衣類も試す」といった消費促進をねらったジョイント・ベンチャーの事例です。
ソフトバンクと日本通運による「MeeTruck」
ソフトバンクのDX事業部とドライバー不足に悩む日本通運が立ち上げた「Mee Truck」も面白い取組みです。
今日の物流業界は、EC拡大に伴い常に業務量が超過状態。
そこで、ソフトバンクが独自のアプリケーションサービスを開発・販売することで、業務効率化を実現する狙いです。
両者のコラボレーションで、配達案件を効率的に集計し、円滑な配車やドライバーの勤務計画まで作成するクラウド型配車支援サービスが開発されました。
しかしながら、これを活用して日本通運の課題を解決するだけでは、ソフトバンクにDX化を外注すればいいだけの話です。
わざわざ合弁会社を設立しているからには、サービスを外部に展開し「MeeTruck」単体で会社としての経営を成り立たせなければなりません。
現在は支援サービスを展開することで、物流業界全体の課題解決に取り組んでいます。
美容室とネイルサロン
より身近な例として、街角で同じ店舗内に美容院とネイルサロンが入居している光景を見たことはありませんか?
これは、店舗数の多い大手美容室と、自社店舗を保有しないネイリストスクールがジョイントした事例です。
美容室には顧客のカラーなどの待ち時間にネイルアートのサービスを提供して顧客単価を上げるメリットがあり、スクールとしては固定費を増やさず人材派遣の要領で顧客を獲得できます。
最近では、スポーツジムにもネイリストやマッサージ師が派遣されている例も見かけます。
ジョイント・ベンチャーというと一緒にサービスを開発するイメージが強いですが、固定資産を持つ企業と人的スキルを持つ企業が互いの強みをコラボレーションするというモデルです。
ジョイントベンチャーを設立するメリット
最後に、ジョイント・ベンチャーのメリットを掘り下げていきましょう。
参加企業の強みを活かし合える
まずは何といっても、双方にとって新たな顧客やビジネスチャンスを生むシナジー効果がねらえることです。
ビックロの例であれば双方の顧客からの売上拡大であり、ソフトバンクと日本通運の例であればノウハウを共有することによる新たなビジネスの創出です。
お互いのブランドや人材、ターゲット、信用力などを活かしWin-Winなビジネスを生むこと。
これこそがジョイント・ベンチャー設立の一番のメリットです。
覚書だけの業務提携や資本関係に主従のある買収ではなく、合弁会社設立という手法で新規事業に独立性を持たせることができるので、本体業務とは切り離して事業を考えたりノウハウを広く共有することも可能です。
このため、相互にこれまで持ち得なかった資源を用いて新しい領域でビジネスを展開したり、あるいは弱みを補い合うことで生産性や実績を伸ばすチャンスがあるのです。
ローリスクでビジネスをはじめられる
また、リスクを減らすという観点でもジョイント・ベンチャーは有効です。
一般的に新事業に乗り出すには大きなリスクが伴うので、資本力の大きな多国籍企業であっても二の足を踏んでしまいがちです。
しかしながら、お互いの強みと弱みを補うシナジー効果が期待できる合弁会社であれば、新しい領域にチャレンジしやすいのです。
また、利益を参画企業で分け合うということは、コストや赤字も同様に参画企業で痛み分けできるということ。
事業が立ち行かない場合のリスクを分け合うことができます。
もし事業が飛躍的に成長した時にも、独立性のあるジョイント・ベンチャーであれば柔軟に採用活動や追加投資ができるのも経営しやすいポイントです。
ジョイントベンチャーによってビジネスの可能性が広がる
合併や買収、業務提携とは異なり、複数の事業体が出資して合弁会社を設立するジョイント・ベンチャー。
参画企業同士のシナジー効果が期待でき、またローリスクで新しい事業に参入できるのが魅力です。
IT業界に限らず、物流や小売、サービスなどあらゆる業界で成功事例を収めつつあるビジネススキームなので、この手法により未来のビジネスの可能性が広がることが多いに期待できます。