- PEST(ペスト)分析とは
- PEST分析を行う際のテンプレートと実際の手順
- PEST分析の事例
外部環境分析の定番=PEST(ペスト)分析
企業の戦略を検討する際に、前提条件としてその企業に関連する環境の分析を行うことは定番です。
そしてこの環境分析は、企業を取り巻く状況を分析する「外部環境分析」と、その企業自身について分析する「内部環境分析」に分けて行うことが一般的です。
ここでは外部環境分析を効率的かつ効果的に行うために頻繁に用いるフレームワークである、PEST分析についてご説明します。
「PEST分析」とは?
PESTは「ペスト」と読みます。
ペストと聞くと学生時代に世界史の教科書に出てきた、14世紀にヨーロッパで多くの人が亡くなった原因となり「黒死病」とも呼ばれた伝染病のイメージが強いかもしれませんが、もちろんPEST分析は病気とは関係ありません。
PEST分析は企業活動に影響する外部環境を、P=Politics(政治)、E=Economy(経済)、S=Society(社会)、T=Technology(技術)の4つに分類し、関連する事項を分析する手法です。
アメリカの著名な経営学者で、マーケティングの大家として知られるフィリップ・コトラー氏が最初に提唱したと言われています。
外部環境分析を行う意味は?
マーケティング、商品開発、資金調達、M&A…企業が行う活動は常に外部環境の影響を受けます。
真空状態の中で行う物理の実験であれば、その実験対象物のみの特性を考慮すれば良いでしょう。しかし実際の世の中で行われる企業活動は様々な外部要因の影響を受けます。
例えば走行性能に優れたガソリン車でも、地球温暖化を防止するために二酸化炭素を排出するガソリン車は規制すべきだという政治的流れが強くなれば、市場で成功を収めることは困難です。
企業戦略であれ、商品のマーケティング戦略であれ、“真空状態”の中で実施するのでない以上は外部環境の影響を考慮する必要があるのです。
外部環境をMECEに整理する手段がPEST
一言で外部環境と言っても、企業活動を取り巻く要因は無数にあります。
これらを分析するのに、気づいたところから闇雲に分析していったのでは、分析の重複や抜け漏れが発生する可能性が高まります。
こうした可能性を避けるためには、分析を行う前に分析対象や分析で明らかにしたい論点を整理しておくことが有効です。この整理の際に求められるのが、ダブりなくかつ抜け漏れなく論点を整理する視点です。
この「ダブり無くかつ抜け漏れ無く」という視点は、英語のMutually Exclusive but Collectively Exhaustiveの頭文字をとって“MECE”(ミーシー)と呼ばれます。そしてMECEに外部環境を分析するために使われるのがPEST分析です。
尚、MECEについては詳しく解説した記事がありますので、興味のある方はこちらも参照ください。
この記事を読むと分かる事 MACE(ミーシー)とは? MACEの具体的な考え方とコツ MECEな視点からビジネスを分析するフレームワーク例ロジカルシンキングに欠かせない考え方MECE(ミ[…]
PEST分析は経営戦略やマーケティング戦略検討時の定番フレームワーク
前述したように、PEST分析では企業活動に影響する外部環境の要素を、政治、経済、社会、技術の4つの目線で洗い出します。このシンプルさ、わかりやすさがPEST分析を外部環境分析における定番のフレームワークとしています。
世の中にある経営に影響を与える要素は、その気になればもっと細分化できますし、厳密に言えばPESTのどの項目にも入れにくいものや、複数の項目に関わるものもあります。実際、PESTにLaw(法律)とEnvironment(環境)を加えた「PESTLE」というフレームワークなども提唱されています。
しかし、やはりPESTという語感や、4つという絶妙な数から、PEST分析は外部環境分析の定番フレームワークとなっているのです。
PEST分析のテンプレート・手順を解説
それでは実際にPEST分析を行う際のテンプレートを見ながら、分析の手順を解説しましょう。
テンプレートはここでご紹介するもの以外にも様々なものが世の中にあります。しかし基本的な構造は共通です。
PEST分析のテンプレート
上で示したのは最も基本的なPEST分析のテンプレートです。用紙を4つのエリアに区分して、それぞれにPolitics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)とタイトルを付けます。
上記は一番シンプルな形ですが、さらに4つのエリアの中を、過去・現在というように2つに分けて環境の変化をわかりやすくするといった工夫をしているテンプレートもあります。このあたりは、自分がどのような用途・目線でPEST分析を行うのかによってアレンジすれば良いと思います。
以下のリンクよりテンプレートをパワーポイント形式で無料ダウンロード頂けます。資料作成等にぜひご活用下さい。
フレームワーク テンプレート フリーダウンロード集
PEST分析の手順
テンプレートを用意したら分析を行っていきます。
以下でご紹介するのは基本的な手順ですので、必ずこのとおりでなくてはならないという訳ではありません。分析の目的や、いつまでに分析を終わる必要があるのかといった時間制約などに応じて適宜変更して構いません。
①分析の目的を確認する
これはどんな分析でも共通しますが、最初に今回行う外部環境分析は何のために行うのかを明確にします。
PEST分析は外部環境を4つの要因に分類するのでわかりやすいとは言っても、世の中には無数の事象があります。分析を行う目的を明確にすることで、そうした無数の事象の中からどの範囲を考えれば良いのかという全体像を絞りこむのです。
例えば国内に特化した事業に関する戦略のために分析するのであれば、対象として優先するのは主に国内の事象、つまり国内政治、国内経済、国内社会、国内の技術動向になります。
一方で、グローバル市場での戦略を考えるのであれば、国際政治、世界経済、グローバル社会、グローバルテクノロジー動向というように見るべき範囲は広がります。
また、金融サービス分野と医療サービス分野では、同じように社会や技術と言っても視野に入れる範囲は違ってくるでしょう。何のための分析なのか、考えるべき対象範囲の全体像を整理してから分析を始めることが必要です。
②分析の論点・分析項目を洗い出す
次にPESTの各項目に沿って、分析するべき論点を洗い出します。
Politicsであれば政治、規制、法律などに関連して、どんな論点を検討するのかを洗い出していきます。Economyについては、経済情勢、景気動向、企業活動、金利や株価などのマーケット動向などについて、今回どんな論点を検討するのかを洗い出します。
Societyについては、社会の流れ、生活の変化、消費者の行動様式、流行などに関連する論点です。そしてTechnologyについては、技術動向、新製品動向などが論点になります。
これらの論点を設定する時のコツは、PESTの分類に厳格にこだわりすぎないことです。
世の中の事象は、複雑に絡み合いますから「これはPolitics、これはSociety…」と全てきれいに整理できるとは限らず、時にはどちらにも当てはまることもあります。逆にどの区分にも当てはまらないように見えるものもあります。
例えば、政府や中央銀行の政策といったPolitics的な要因によって金利や株価などのEconomyに関する要因が動くことは普通です。
また、スマートフォーンという新技術が普及したことで、人の生活や考え方などの社会生活に変化が起きました。こうした論点をどのPESTのどの分類に含めるのかに、労力と時間を割いても得るものは多くありません。
もともとPESTは、考えるべき論点を「漏れなくダブりなく(つまりMECEに)」洗い出すための整理法なのですから、極端に言えば4つの分類のどこかに入っていれば良いのです。
分析の初期の段階では、まずざっくりと分類してみて分析を進めてから、「このPoliticsに含めた論点について分かったことは、Societyに含めているこちらの論点と関連付けた方が理解しやすい」などと引っ越しさせることも“あり”です。
③情報を収集して分析を行う
洗い出した各論点について情報を収集し、必要な分析を行います。情報を収集する際にはできるだけ一次情報にあたり、信頼できる出所の情報を使うようにします。
また、文献やデータだけでなく、業界のインサイダーや顧客などへのインタビューといった“ソフトな”情報も織り交ぜることが必要です。
分析を行う前には、各論点について初期仮説を考えておきます。まったく知識が無いということであれば、簡単に基礎的データだけ調べたところで初期仮説を考えてみます。仮説も無しに分析を進めようとすると、世の中にある全ての情報を集めないといけないような気分になってしまいがちです。
まずは仮説をたてて、それを検証するために使えるデータに絞って収集・分析することです。その結果として仮説が間違っていそうなら、仮説を修正して新たな仮説をまた検証します。
この仮説構築→検証→仮説構築→検証・・・というサイクルをできるだけ短い時間で繰り返すことが、最終的に意味のある分析をすることにつながります。
④分析結果をまとめる
最後に分析した結果をまとめます。PESTの項目ごとに、論点に沿ってわかったことをまとめます。
分析を行ってみると、最初に設定した論点の中に分析を行う目的に照らすと必ずしも必要なかったものというものが出てくることがあります。そんな時はその論点については、特に記載せず省略してしまって構いません。
また論点設定のところでも触れたとおり、最初はPoliticsに含めた論点だったが、分析してわかったことを考えて、Economyの部分で語るといったこともあり得ます。
分析全体を通じて明らかにしたい命題は何かを考えて、その命題への答を伝えるのにベストだと思う形にアウトプットをまとめます。
PEST分析の事例
それではPEST分析の事例を見てみましょう。ここでは、架空のテーマとして「日本のプロ野球のチーム数を12→16に増加させるべきか」を設定します。
このテーマについて検討する際の外部環境分析をPESTのフレームワークに従って行うこととし、各項目の論点を設定してみます。
Politics(政治・規制)
Politicsについては以下のような論点が考えられます。
・地方に球団を増やすことは、地方創生という政府方針に合致するのではないか、その場合は政府や地方自治体から補助金などのサポートは期待できないか
・文部科学省、スポーツ庁はどのように考えているのか
・スポーツくじがプロ野球も対象とする可能性はどのくらいあるか
・実際に球団を保有したい企業や、球団を誘致したい自治体はどのくらい存在するのか
・Jリーグのチームが増加する際に、地方自治体はどのような対応・支援をしたか
Economy(経済・市場)
Economyに関する論点を考えてみます。
・プロ野球の市場規模はどう推移しているのか、増加しているのか
・海外(特に米国)のプロ野球の市場規模はどのくらいか
・プロ野球球団を保有するためにかかるコストはどのくらいか
・保有する体力のある企業・組織はどのくらいあるか

Society(社会)
続いてSocietyに関する論点です。
・現在のプロ野球ファンはどのような人か、年代、居住地などはどうなっているか
・海外での日本のプロ野球への注目はどの程度か
・少子高齢化の人口動態は今後どう推移するか、現在のファンの年齢層はどう推移するか
・野球を行うプレーヤー人口はどのくらいか、どう推移しているか
・プロスポーツ全般に対する消費者の嗜好はどうなっているか、スポーツ間の人気シェアはどうなっているか
・都市と地方の格差はどのような状態か、今後どうなっていきそうか
・地方のプロスポーツチームの経営状況はどうか
Technology(技術)
最後はTechnologyに関する論点です。
・遠隔地への選手の移動負担を技術的に軽減することは可能か
・テレビ・ラジオ以外にプロ野球を伝えるメディアはどのようなものがあるか

分析の論点はある程度の仮説を持って考える
上記の論点をご覧になって気づいた方も多いと思いますが、これらの論点は網羅的ではありません。「これは見なくていいの?」と思う論点があった方も多いでしょう。
これは、上記の論点は大命題である「日本のプロ野球のチーム数を12→16に増加させるべきか」に対して、ある程度の仮説を持ち、その仮説に関連する外部環境の論点を中心に選定したからです。
ここでは「地方に本拠地を置き、地元密着で運営される球団であれば経営が成り立つので、球団数の増加をするべき」という仮説を置いています。
まったく仮説無しに分析を行い、そこから仮説を導きだそうと考えると、どうしても広い範囲の調査・分析が必要になります。
時間と労力が無尽蔵にあるのであればそのアプローチでも良いですが、限られた時間と労力で検討をするのであれば、仮説先行で分析は仮説の検証のために行うものと考えるのが現実的です。
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PEST分析を使いこなそう
外部環境分析の定番であるPEST分析について説明してきました。
外部環境分析は様々な種類の戦略や事業計画の検討を行う際に必須となる分析です。もちろん実際の検討時には、外部環境分析に加えて、内部環境分析、シミュレーションなど様々な分析が必要です。
また外部環境分析も必ずPEST分析を行わなければならない訳ではなく、他の分析フレームワークも存在します。
ただ、PEST分析は多くの人が使うだけあって、分析者にとってわかりやすいですし、分析結果を聞く側にも理解しやすいものであり、自分の使える“道具”として分析の引き出しの中に持っておくと良いでしょう。
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